臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 やや長身の相手は大きなフットワーク使い、左へ回っていく。

 小柄な石山は、頭をゆっくりと振りながら前へ出る。


 軽いパンチの応酬があった後、ロープを背にした相手がパンチを出した瞬間、石山が左フックで飛び込んだ。

 凄い音を立てて相手の右グローブに当たったが、石山はお構い無しに連打を浴びせた。

 石山が五発目のパンチを打った時、相手は体をくの字に曲げてマットに右膝をついていた。左のボディーブローが当たったようである。

 レフリーは、カウントエイトまで数えたが試合は再開された。

 普段は温厚な石山だが、情け容赦なく連打を浴びせた。再びレフリーが中へ割って入り、カウントを数える。

 カウントエイトまで数えた後、レフリーは両者をそれぞれのコーナーに戻す。高校ボクシングでは、同一ラウンドで二回ダウンを奪うと勝利が決定する。

 一ラウンド一分過ぎ、石山はRSC(レフリー・ストップ・コンテスト)で勝利した。


 あまりの速攻に、大崎も応援するタイミングを失っていた。

「二試合後は相沢だ! 気合い入れっぞ」

 大崎は、自分へ言い聞かせるように後輩達へ言った。

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