臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 ピン級(四十六キロ以下)の試合が終わり、黒木琢磨(くろきたくま)の試合が始まった。


 黒木の構えはオーソドックス(右構え)だが、極端に低いガードである。両手のグローブはヘソの高さにあった。

 そして、リラックスした状態から鞭のようなパンチが繰り出される。

 相手のパンチは上体の動きと最小限の足裁きでかわす。

 二ラウンド開始早々、黒木が一方的に打っているところで試合が終わった。

 会場にいる半分以上の者が感心するように見ていたが、同じ階級になりそうな有馬と白鳥は呆然としていた。


 次は石山の試合である。

 対戦相手も研究していたようで、決して同じ場所には留まらず、すぐに位置を変え、石山に的を絞らせないようにしていた。

 石山は慌てた様子もなく、前半はボディーにパンチを集めた。

 二ラウンド後半、石山の左アッパーが顔面にヒットした。相手の足が大きくよろめく。その瞬間にレフリーが割って入り、石山の優勝が確定した。
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