臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 ミットの構えに反応して打つので、梅田は何も言わない。

 終了のブザーが鳴り、無言のミットが終わる。インターバル中に梅田が有馬へ言った。

「次もルールは同じだが空振りさせる。だが、たまに当たるかも知れんぞ」


 開始のブザーが鳴った。

 有馬は構えた所に打つのだが、梅田が当たる瞬間にミットの位置をズラすのでパンチは虚しく空を切る。

 有馬はパンチを殆ど外されて疲れたのか、軽く打ち始めた。手抜きのパンチである。

 梅田はそれを見抜き、パンチを外すフリをしてミットで受けた。手打ちのパンチなのでシケた音がした。


「気の抜けたパンチを打つんじゃねぇぞ!」

 梅田はそう言って、有馬の頭をミットで叩いた。

 スパーン!

 このラウンド、一番いいミットの音が出た。


 終了ブザーが鳴り、梅田が再び有馬に言った。

「有馬、もう一ラウンドだ。なるべく鼻で深呼吸しろ」

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