臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)

「先生、前進する時は何故つま先から着地するんですか?」

「踵から着地した場合は、前足の位置が不安定になるからだ。すると、ストレート系のパンチが打ちにくい。今のお前らのバランスは安定していないから、実感は無いかも知れんが、今は俺達を信じて言われた通りにしろ」

「はい、分かりました」

 返事をした白鳥だったが、質問とはいえ、無口な彼が自分から話すのは珍しい。この前の大会で黒木を見て、危機感を持ったのであろうか?


 練習が終わった時、梅田は一年全員に言った。

「お前ら、強くなりたければ朝走ってみろ。まだ全員下半身が弱い。ゆっくりでもいいし短い距離でもいいから、毎朝走り続けたら必ず強くなる。但し、自分が走っている事は誰にも言うな!」

「誰にも……ですか?」健太が訊いた。


「そうだ! ……まぁ、一人位ならいいだろう。今まで自分がやった事をベラベラ喋る奴で、強くなったのはいなかったからな」


「……他の部活のように、学校では走らないんですか?」

 今度は康平が質問をした。
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