臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
 電車の中で、健太は気が重そうに言った。

「あまり気が乗らねぇんだけど……」

「まぁそう言うなって」

「一緒に勉強するのは、あの山口亜樹って奴だろ。美人だけど高飛車そうで苦手なんだよな」


 どうやら健太と亜樹は、お互いを苦手としているようである。

「大丈夫だって! あいつ見た目よりいい奴だよ。それに、もう一人来るって言ってたしさ」

「そもそも何でお前が山口と仲いいんだ? あの入学早々ビンタした奴だろう」


 亜樹は入学早々、しつこく言い寄って来た男を廊下でビンタをし、一時学年で話題になっていた。


「……向こうからよく俺に話し掛けてくんだけど、正直俺もよく分かってねぇんだよ。ただ、最近助けられてっから……。まぁ、友達の一人だよ」

「まあ、お前の友達は俺の友達みたいなもんだからな」

 健太は、康平の歯切れの悪い返答にも敢えて突っ込まず、臭い台詞で締めくくった。

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