臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)
「ゴメン。ちょっとトイレ行ってくる」

 健太は大して尿意もないのに席を外し、トイレに向かった。

 そしてズボンも脱がずに洋式トイレに座り、想いにフケっていた。

 康平と幼稚園から友達だった健太から見て、亜樹は康平だけに初めて出来た本当の女友達である。

 中学時代は鳴海那奈(なるみなな)とも親しかったが、彼女と付き合った坂田裕也(さかたゆうや)を通してである。

 健太は頭で祝福はしているが、気持ちは切なくなっていた。しばらく座っていたが、よく顔を洗ってトイレを出る。

 なにくわぬ表情をしながら席に戻った健太だったが、向かいの席には知った顔の女の子がいた。

 健太が今気になっている女の子、内海綾香(うつみあやか)が座っていたのだ。

 健太が小さく右手を上げる。

「……よ、よう」

「遅れてごめんね。部活が長引いちゃってさ。……健太君も一緒だったんだ」

「知りあいなの?」亜樹が綾香に訊いた。

「同じクラスなんだ」


 健太は動揺しているのか黙っていた。

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