誇り高き
小十郎は怪我が治った後、懲りずにまた私に付きまとった。

『私といるとお前、死ぬぞ』

私が初めて彼に掛けた言葉がこれだった。

現に襲われる頻度は高くなっていたし、小十郎がいる時にも襲撃される事があった。

『大丈夫ですよ。僕、こう見えても強いので』

確かに彼は同年代に比べれば強いほうではあった。

しかしそれは、同年代に比べればであって私や年上からしてみれば断然弱い。

年々忍の質は落ちていたし、才能の無い子供は物心つかないうちに売られる。

その子供の数も年々増えるばかりで、里の子供の数は反対に減る一方。

そんな中での強いは、里の中では弱いに等しい。

が、私がそこまで言ってやる義理はない。

自らの意思でここにいる以上、覚悟は出来ているのだろう。

そして、更に時がたった。

今だに小十郎は私に張り付いている。

私はあの日以来、話をしていない。

変化したことといえば、里にはもう子供はいない。

いつかこの里も消滅するだろう。

その未来はそう遠くあるまい。

しかし私は、その日を見ないだろう。

私は明日、この里を出るし私の命も長くはない。

妙に空が晴れ渡っていた日だった。

唐突に小十郎が言ったのだ。

『紅河さん、今日でさようならです』

初めは、私の事を言ってるのかと思った。

しかし小十郎が言っていたのは自分の事だった。

『僕は今日、里を出ます。本当は時間がない。でも僕は最後に紅河さんに会いたかった』

別に小十郎がいようがいまいが構わない。

そう思ったのだけれど。

何故か残念な気もした。

『紅河さん。僕は貴方の事が………待ってください!!』

私は急いで家に向かって走った。

全力疾走で。

部屋からあるものを取り出して。

後ろから追いかけてくる小十郎に投げつけた。

『え………?これ……』

それは、昔小十郎が私に差し出した手拭い

私は受け取らなかったのだけど、無理やり押し付けられて。

血で汚れてしまったそれを私は綺麗に洗ってとっておいた。

小十郎もその手拭いの事は覚えているのだろう。

けれど、まさか私が持ち続けていたとは思ってもいなかったのだろう。

驚いて呆然としている。

『おい、小十郎。何をしている。早く支度をしろ』

『え……あ…待って、待ってください。紅河さん!!』

私は振り向くと、僅かに唇を動かす。

‘‘生きろ”

後は見向きもせず家に入った。

だから私は、その後何があったのか知らない。



翌日、私も里を出た。

と言っても、任務と掟に縛られていたのだけれど。


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