誇り高き
褒めてないと取られる方が心外だ。

その言葉に更に土方は赤面した。

先程とは違った意味で。

若干土方を見る山崎の視線が冷たかったのは気のせいにしておく。

「あーーもうお前らとっとと帰れ。そして寝ろ」

「普段と言ってることが正反対ですよ。土方さん」

「お前らは真面目に休んでくれ。それが仕事だ。以上!」

くるっと土方は背を向ける。

「ほらほらお二人さん。副長もこう言うてるし。顔色もあんま良くない。はよ休んだ方がいいで?」

山崎も二人の背をぐいっと押す。

紅河と沖田は不承不承ながらそれに従った





二人は自分の部屋を目指して歩く。

紅河の場合、部屋は離れにあるので土方の部屋からは遠い。

先に沖田の方が部屋に着いた。

「ねぇ、紅河さん」

「はい?」

部屋に入る前に沖田が振り返って尋ねた。

「例えば、例えばですよ」

「えぇ」

「もし、山崎さんが間者だったらどうしますか?」

紅河は静かに目を閉じた。

とん、と壁に寄り掛かる。

「山崎さんが間者だったとしても、私は命令に従うだけですよ」

「じゃあ、始末しろと言われたら」

「それに従いますよ。別に………いえ、何でもないです」

別に、仲間を殺すことなどすでに何十回と繰り返してきたことだ。

そう言おうとして、紅河は言葉を飲み込んだ。

「そう……ですか。すみません。いきなり………気を悪くしましたか?」

「いいえ、お構いなく。では失礼します


何事もなかったように紅河は一礼して歩き出す。


紅河が目を閉じる時は、感情を読まれたくない時だ。

目は口ほどに物を言う。

僅かな心の揺れさえも瞳は映してしまう。

______仲間を何十回と殺してきたけれども。


莵毬を殺すのは。


酷く、苦しい___________。



遠ざかる紅河の背を見つめて、沖田は小さく小さく呟く。

「私の勘違いだったらいいのですが……」

匂うのは長州だけじゃない。

けれども、これが勘違いで有って欲しいと沖田は心の底から願う。

紅河のために。













「山崎さんが、間者でありませんように」











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