誇り高き


紅河配置は四国屋。

土方班だった。

今のところ、何の動きも感じられない。

長州はここにはいない。

そんな予感が紅河はしていた。

_______敵は池田屋では無いのではないか。

それは時間が経つにつれて、濃くなっていく。

いよいよ予感が確信に変わっていく。

「土方さん」

紅河が土方に声を掛けた。

「やはり、池田屋なのではないですか?」

これ以上待っていても時間の無駄だ。

土方も焦ってきているのか、普段以上に額に皺を寄せている。

もし、池田屋であった場合伝達係として山崎がかるはずなのだが、そちらも一向に来る気配がない。

「……行くか」

「行こうぜ、土方さん!!」

原田の言葉が後押しとなった。

「行こう!!」

一斉に池田屋に向けて走り出す。







浅葱の羽織翻し。

闇に浮かぶは白刃の光。








日も暮れ、星が瞬く中、道を照らすのは一本の松明の光のみ。

知らず知らずのうちに歩みが遅くなってしまう。

その中でただ一人。

紅河は屋根から屋根へ駆け抜ける。

一刻も早く池田屋へ。

軋む体を紅河はその思いで必死に支える。

隣の屋根に飛び移るたびに砕けそうになる膝。

それでも、歯を食いしばってやっと宿の明かりが見えてきた。

「池田屋………!」

ぐんと血の匂いが強くなる。

やはりこちらだったのだ。

その、池田屋の障子に映る幾つかの人影。

その中の一つに見慣れた背格好がいる。





‘‘………今日の戦いが終わったら、ちゃんと皆さんに言います。医者にもいきま
す”






あと少し、あと少しでいいから。

持ちこたえてくれ。









私が強くなったのは…………








もう、大切なものを失わないため











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