誇り高き







此方は二階。






近藤と沖田が一つ一つ部屋の戸を開けて確認していく。

「総司、いたかッ?」

「いえ、近藤さんは!」

「此方もまだだ」

斬りかかってくる藩士達を斬り捨てながら、二人は首謀者を探す。

気付けば辺りは一面、真っ赤に染まっていた。

人も初めの頃よりもかなり少なくなっている。

「近藤さん。下に行ってください。こっちは私一人で大丈夫です」

「済まない、総司。……頼んだ!」

近藤の気配が遠ざかっていく。

沖田は最後の襖に手を掛けた。

「御免!」

「待っていましたよ。沖田総司」

ふふふ、と部屋の真ん中に座った男が笑った。


松下村塾四天王の一人、吉田稔麿。

安政の大獄にかけられた、吉田松陰の無念を晴らすために生きてきた男。

「吉田、稔麿ですね」

沖田も刀を構える。

「えぇ。この時を待っていたのですよ。………憎き、幕府。その狗共めが。ここで滅ぼしてくれるわ!」

かっ!

斬りかかってきた吉田の刀を素早く擦り上げ沖田は突く。


ヒュン______。


「そんなものか!」


「まだまだですよ」


瞬時に沖田は体勢を戻し、再び刀を構える

吉田は上段、対する沖田は平正眼。

僅かに斜めに構える。

そうすれば、自然と相手の刀を擦り上げる形になる。


面を擦り上げ籠手を擦り上げ、突く。

剣に天賦の才を持って生まれた沖田総司。


彼は刺突技を得意とし、並のものなら突かれたと思う間もなく沖田の剣に串刺しにされる、その速さ。



「はぁ………はぁ………、……おかしいですね……?」


それが、今日はやけに決まらない。

普段ならばもう勝負はついているだろうになかなか吉田を倒すことが出来ない。

体に力が入らない。

やけに息が上がっている。

出てきそうになる咳を何度も堪えて、その度に喉の奥で血の味がする。









< 122 / 211 >

この作品をシェア

pagetop