誇り高き





「けほっけほっけほっ‥‥‥‥‥っゲホッゲホッゲホッ‥‥‥‥‥‥カ‥‥ハッ‥‥」








よりによって、こんな時に。

今までで最大級の席が出る。

喉を何か熱いものが駆け上がってくる。

それは、咳とともに口から溢れ出た。



べちゃ、と嫌な音を立てて落ちた赤黒いそれ。




「‥‥あ‥‥れ‥‥?」





沖田はそれを呆然と見ていた。




「ほう‥‥、お前、労咳だったのか」


床にこぼれた大量の血。


これを、わたしが吐いた?

‥‥‥‥あぁ、気づかない振りをしていたのに。

うすうす自分が労咳ではないかと感づきながらも、必死で気づかないようにしていたのに。

遂に、吐いてしまった‥‥‥‥。








労咳、それは不治の病。

最初はただの咳が出るだけ。

次第に咳に血が混じるようになり。

やがて、死に至る。






どうして、私なのか。

何故、私が病に冒されなければならない。

私はまだ、戦いたいのに。

近藤さんのために、戦いたいのに。







「‥‥‥‥例え手負いであろうとも容赦せん!」


「黙れ!!」



沖田は激情とともに剣を繰り出す。

あれほど当たらなかった剣が、いとも簡単に吉田の体を貫いた。





「ぐあぁぁぁっっっ!!‥‥‥‥おの‥‥れ‥‥、沖田‥‥‥‥新撰‥‥組‥‥‥‥‥‥憎きっ‥‥幕府。‥‥この無念‥‥一生‥‥かけ‥‥‥‥て‥‥‥‥‥‥‥‥」


もう、声が出ない。

吉田の脳に駆けるのは最期の時に見るという走馬灯。

幼い頃、松下村塾で学んだ日々。

恩師の吉田松陰先生。

共に競った、三人の級友たち。

『栄太郎っ!』

『くそっ、また負けた1』

『ほんとに負けず嫌いだな、栄太郎は』

『先生が捕まっただと?!』

「まて、早まるな!!』

『‥‥吉田先生』

いつのまにか、松陰先生と同じく先生と呼ばれる立場になった。

そして今日、ここで私は終わる



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