誇り高き
「いえ!………いいえ、吐きました」
紅河は嘆息を吐くと、立ち上がった。
「人を呼んでくる。待ってろ」
さすがに、紅河の力で大の男一人を持ち上げるのは無理だ。
もう、土方達も来ているだろうし、一階の戦闘も終わっているようだから、誰か連れてこようと思ったのだ。
「あ…待って………ください。いか……ないで」
それは沖田にも分かったのだが、沖田は思わず紅河を引き止めてしまった。
「……別に、いなくなる訳ではないよ」
呆れた顔をしながらも、紅河は壁に寄りかかって、
「誰か来るのを待つか」
と、沖田の言う通りにここにいてくれるようであった。
「………………」
「………………」
「………………」
「……………あの」
沈黙に耐えられなくなって、沖田が口を開いた。
紅河は視線だけで応える。
「紅河さん。……何故、助けてくれたんですか」
言ってから、これは愚問だったと沖田は苦笑いした。
紅河の視線も冴え冴えと冷たい。
「知るか」
紅河は吐き捨てるように言う。
どこか、苛立っているようにも見えた。
「………走っていたら、お前の姿が見てた。それで来てみたら、お前は死にそうになっていた。それだけだ」
近藤とか土方達は、仲間だから助けるのは当たり前だ、と言っただろう。
だが、紅河にとって、仲間だから助けるのは当たり前でないし、実際自分がどうして沖田を助けたのかわからなかった。
「……そう、ですか」
「後は黙っていろ。話すのは体力を使う」
紅河が黙っていたのは、気を遣っての事らしい。
だが紅河は、自らもかなり疲れた顔をしていた。