誇り高き

何にも縛られない、真実の_______。

一歩、また一歩紅河は足を踏み出す。

『そう、あと一歩。あと、一歩よ』

あと一歩で死の谷へと落ちる。

そこで、紅河は立ち止まる。

「思えば、いつも死と隣り合わせだった。目の前にはいつも、この闇が広がっていた。それでも、私がここに来なかったのは、いつも周りに誰かがいたから」

『そう。貴女の代わりに私達がここへ来たから。みんな、貴女の身代わり』

闇に浮かぶ母上、莵毬、小十郎達。

母上の言葉に皆黙然と頷く。

『これからだってそうよ。これからだって「だから私は、まだ死ぬわけにはいかない沢山の人を守らなければいけない」

紅河が誰よりも強いのは。

誰よりも生きようとする力が強いから。



これは、自分の弱い心が見せる幻。

死んだほうが楽だから。

楽なほうへ楽なほうへ、導こうとする弱い心。

どんなに心が凍りついていようと。

弱い心に屈したことはない。


‘‘生きる”

その覚悟を決めた時から。

「莵毬の生死は現実で、自らの目で確かめる。そのためにも、私は死ねない」

どくん。

どんなに体がぼろぼろでいようと、私が戦うのは大切な人をもう失わないため。

『紅河!』

背後から強く引っ張られた。

どんどんと死の淵から遠ざかる。


いづれ、ここに来ることになる。

けれど、それは今じゃない。


「紅河!」

私は私を呼ぶ声に、応えなければいけないから。

「………おはよう」







『紅河、忘れないで。光とともに影はある光が強くなればなるほど、影もまた濃くなるのだから』






「どんだけ心配かければすむんだ」

「ったく。いつまで寝ているんですか」

「仕事が面倒くさいからって、さぼるな」

光は眩しくて。

眩しすぎて。

ぴったりと寄り添うようにある影に気が付かない。
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