誇り高き




けっして、離れることの出来ない影。





貴方が、私の兄である限り、私は貴方から逃れることは出来ない。






覚悟を、決めなければ。





己の兄に刃を向ける、覚悟を_______。







「______兄上。私は、ここを動くつもりはないよ」





「残念だ」






一瞬のうちに、紅河の腹に彼の拳が食い込んだ。






「か……は……っ」





それでも、紅河は何とかその場に踏みとどまると、兄の顔に向かって足を振り上げた

それをぎりきりで回避した兄の肩に、今度は降り下げた足が食い込む。

「……っ…さすがだね、紅河。でも、そんな体で私に勝てると思わない方がいい」

紅河はついさっき目覚めたばかりだ。

体力も、気力も完全ではない。

武器も、何一つ持っていない。

「はぁ……はぁ………ぁ…」

膝をついた紅河は、体をくの字に折り曲げた。

ズキン。

激しい痛みが紅河を襲う。

「これ以上やると、紅河。______死ぬよ」

兄の目は本気だった。

紅河は、無理やり足に力を入れて立ち上がる。

大切な者を、守るために。

「私は……死なないよ…」

あと一発。

あと、一発だけなら決めることができる。

体の全ての力を抜いて。

みっともなくともいい。

卑怯でもいい。

たった一発を。

紅河は、唯一懐にあった扇子を投げつける。

兄はそれを冷静に叩き落とす。

紅河の狙いはその時にできる隙だった。

足の間に向かって、全力で足を蹴り上げる




_______ガタンッ!






「____っ…く……」

「残念だったね。なかなかいいけりだったけど」

ギリギリと首に力が入る。

ピシッ。

首輪に亀裂が入った。




蹴りを避けた彼は、紅河の首を掴んで壁に押し付けたのだ。



「「紅河!!」」

音を聞いた土方達が駆けつけてくる。

「来る……な」

誰もこの男に敵いはしない。

バキンッ。

完全に首輪が壊れた。

ぱらぱらと金の破片が散る。

それとともに、首にかかる力が抜けた。

ドサリと床に倒れる紅河を見下ろして、兄は言う。

「なかなか、紅河も頑張ったようだから一つだけ。………両親を殺したのは、真実莵毬だよ。誰に命じられたわけでもなく。彼が想い、彼はその想いによって行動した。………これでもまだ、莵毬を信じられる?」

嘘だろう。

< 135 / 211 >

この作品をシェア

pagetop