誇り高き
けっして、離れることの出来ない影。
貴方が、私の兄である限り、私は貴方から逃れることは出来ない。
覚悟を、決めなければ。
己の兄に刃を向ける、覚悟を_______。
「______兄上。私は、ここを動くつもりはないよ」
「残念だ」
一瞬のうちに、紅河の腹に彼の拳が食い込んだ。
「か……は……っ」
それでも、紅河は何とかその場に踏みとどまると、兄の顔に向かって足を振り上げた
それをぎりきりで回避した兄の肩に、今度は降り下げた足が食い込む。
「……っ…さすがだね、紅河。でも、そんな体で私に勝てると思わない方がいい」
紅河はついさっき目覚めたばかりだ。
体力も、気力も完全ではない。
武器も、何一つ持っていない。
「はぁ……はぁ………ぁ…」
膝をついた紅河は、体をくの字に折り曲げた。
ズキン。
激しい痛みが紅河を襲う。
「これ以上やると、紅河。______死ぬよ」
兄の目は本気だった。
紅河は、無理やり足に力を入れて立ち上がる。
大切な者を、守るために。
「私は……死なないよ…」
あと一発。
あと、一発だけなら決めることができる。
体の全ての力を抜いて。
みっともなくともいい。
卑怯でもいい。
たった一発を。
紅河は、唯一懐にあった扇子を投げつける。
兄はそれを冷静に叩き落とす。
紅河の狙いはその時にできる隙だった。
足の間に向かって、全力で足を蹴り上げる
_______ガタンッ!
「____っ…く……」
「残念だったね。なかなかいいけりだったけど」
ギリギリと首に力が入る。
ピシッ。
首輪に亀裂が入った。
蹴りを避けた彼は、紅河の首を掴んで壁に押し付けたのだ。
「「紅河!!」」
音を聞いた土方達が駆けつけてくる。
「来る……な」
誰もこの男に敵いはしない。
バキンッ。
完全に首輪が壊れた。
ぱらぱらと金の破片が散る。
それとともに、首にかかる力が抜けた。
ドサリと床に倒れる紅河を見下ろして、兄は言う。
「なかなか、紅河も頑張ったようだから一つだけ。………両親を殺したのは、真実莵毬だよ。誰に命じられたわけでもなく。彼が想い、彼はその想いによって行動した。………これでもまだ、莵毬を信じられる?」
嘘だろう。