誇り高き

紅河は、ゆっくりと目を開いた。



「また、ここに来てしまったのか……」




真っ暗な闇。

何も見えない。

ただ、ただ酷く暗い。



「母上。小十郎。……莵…毬」



以前と違うのは、紅河一人ということだ。

「誰も……いないのか」

当てもなく、紅河は歩きまわる。

自分の気配以外、何一つ感じられない。

何一つ。

そこで、紅河はふっと笑った。

全てを諦めた、力のない微笑み。

ああ、そうだ。

私は、何一つ、全てを失ったではないか。

「もう、これ以上失うことはない」

最初から、私は一人でいるべきだったのだ

一人ならば、誰も傷つけなくて済む。

誰も殺さなくていい。

光がなければ……。

影を恐れる必要もない。

紅河の足が止まる。

紅河はその場に座り込んだ。

「疲れ……た……な…」

眠い。

ここで寝たら、どうなるのだろう。

生と死の狭間のこの場所で。

………もう、考えるのも面倒臭い。

生きようが死のうがどうでもいい。

今はもう、眠いのだ。

ゆっくりと、瞼が下がってくる。

このまま、目覚めなくてもいい。

紅河の身体が傾いで倒れる。

完全に意識が闇に落ちる間際に、誰かの呼ぶ声が、聴こえた気がした。






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