誇り高き

斬_____。

吹き出る真っ赤な血を避けて、刀についた血を払う。

ざっと血飛沫が飛んだ。

毎度、同じ事を繰り返す。

掟の執行者。

掟から逃れられないのは、自分も同じ。

そして、自分が生きている限り掟は無くならない。

とうの昔に、里がなくなっていたとしても

刀をおさめると、任務の報告をしに雇い主の元へ行こうとして、足を止めた。

駆けてくる幾つもの足音。

どうやら飢えた狼共が血の匂いを嗅ぎつけて来たらしい。

そのままとっとと帰っても良かったのだが、ふと興味が湧いたので気配を消して塀の上に飛び乗る。

一瞬遅れて角から浅葱色の狼たちが出てきた。

「………遅かったようですね」

たった今、死んだばかりの遺体を見つけ、沖田が溜息を漏らす。

「仕方あるまい。悲鳴も何も聞こえなかった」

それに関しては評価してもいい、と菁河は思った。

自分達には遠く及ばないものの、多く人を斬っているだけある。

なかなか感覚が鋭いようだ。

死体を検分していた斎藤が首を振った。

「この切り口では流派も分からん。仕立人の特定ができない以上、諦めるしかあるまい」

急に興味が失せた。

紅河だったら、どんな死体の切り口であろうと、確実に流派を想定できただろう。

他の奴らに比べれば少々まし。

所詮その程度の集団に紅河が属していたことが理解できない。

しかも紅河は、親しみさえも持っていた。

多少は面白いものが観れると思ったのだが

これ以上居ても無駄だ。

菁河が帰ろうとした時だった。

「ちょっと待って下さい」

涼しげな声が菁河の足を止めた。

「沖田隊長?どうしたんですか」

部下の不思議そうな声。

「ああ、貴方達は帰っていいですよ。お疲れ様でした」

一番隊と三番隊がぞろぞろと帰って行く。

菁河は自分を射抜く二つの視線を見返した

真っ暗な闇の中でも、菁河は昼間と同じくらいはっきりと見える。
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