誇り高き
沖田と斎藤の目が点になる。

ひとしきり笑ったところで、やっと菁河が二人を見た。

「うん。なるほどね。紅河が気に入る訳が分かったよ」

二人の背中に戦慄が走った。

この男は危険だと、脳が警鐘を鳴らす。

しかし、体が竦んでどこも動かない。

「甘い、綺麗事だ。紅河がどんな言葉よりも好んで、切り捨てた甘い綺麗事。______虫唾が走る」

沖田と斎藤は完全に凍りついた。

「そう。私と君たちは相容れないね。絶対に」

『兄上。私は、人を殺したくありません』

そう言った直後、大勢の人を殺した紅河。

真っ白な、罪を知らないよ純白の髪を、真っ赤な華弁で染め上げた。

彼女は、仲間を敵とみなした。

否、彼女が敵とみなされた。

振り返って、紅河は悲しそうに笑う。

『何度やっても。人を殺すことだけは慣れない』

そう言いながら、手慣れた、良い手際で人を殺す。

矛盾する言動。

「紅河にとって、仲間は敵。君たちにとって、紅河は本当に仲間だったのかな」

蜻蛉の百人殺し。

蜻蛉が始末するのは敵の忍。

蜻蛉が始末するのは、‘‘仲間だった”忍。

『盛大に、紅に染めた百(もも)の花を咲かせましょう』

新月の晩だった。

偶然にも、桃の花が咲き誇る季節だった。

一夜にして、里の桃の花は紅に染まった。

はらりはらりと舞う華弁と花弁。

染まらずに、薄桃色のまま舞う花弁を見て、紅河は嬉しそうに悲しそうに呟いた。

『足りなかったようだから、追いかけないといけない。……新月の晩に、一人ずつ。完全に染め上げましょう』

足りなかったことに、喜んでいた。

追いかけないといけないことに、悲しんでいた。

なあ、紅河。

里を滅ぼそうか。

憎いだろう?

母上と父上を殺した里が。

莵毬を追いやった里が。



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