誇り高き
きっと、目を覚まさせることが出来るのは、彼らであるだろうと言うことも。

____『彼奴らは、私が手放したものをちゃんと握りしめてる』

いつだったか、紅河は切なく笑ってそう言った。

紅河が手放したもの。

新撰組が握りしめているもの。

『出来ることなら、ずっと大事に握りしめてほしい』

紅河は、それを持ったままでいる事は出来なかったから。

だからこそ、彼らには持っていてほしいと願ったのだろう。

『それは、簡単に失ってしまうものだから』

掴んだ砂は、さらさらと零れていった。

掴んだそれも、さらさらと零れていった。

そして、僅かに残ったそれは。

自ら手のひらをひっくり返し、落ちていった。

手放したくなかった?

手放さなければいけなかった?

『____私は、自ら望んで手放した』

零れた砂は、積もることなく風に飛ばされて消えた。

零れたそれは、戻って来ないように、遠くに遠くに蹴り飛ばした。

『私にとって、それは枷でしかない』

柔らかく、温かく、だからこそ抜け出すことが出来ない枷。

その枷の名を、“希望”と言う。

未来を夢見るものなんて、持てなかった。

その明晰なる頭脳で、未来(さき)を見通しながらも、未来(みらい)を見ることはなかった。

見たいなんて、なかった。

怖いから。

その後に来る絶望が怖いから。

紅河について回る影。

それは、兄でも死でもなく。

希望と言う名の絶望なのだ。







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