誇り高き

「紅河さん……」

沖田は震える声で紅河を呼んだ。

久しぶりに見る紅河は、とても小さく見えた。

あぁ、自分は____自分達は。

こんなに華奢な体の彼女に頼っていたのだ

こんなに細い体で彼女は、私達が倒れぬように支えてくれていたのだ。

ぼろぼろになった体で。

声なき悲鳴を上げながら。

本当に、自分達は。

なんて、無力なのだろう。

だった一人の悲鳴を、聞き逃してしまう。

何もしてやれない。

今だって、名前を呼ぶことしか出来ない。

「……紅河、さん」

情けないほど、声が震えている。

彼女はもう目を覚まさないのではないか。

そんな危惧が心をゆらす。

「紅河さん……っ」










闇に指した一筋の光は、私を呼ぶ声とともにゆっくりと広がっていき、やがて闇全体を照らす。

動く事が出来なかった。

名前を呼ぶ声に、四肢を搦め捕られて。

______きっとお前は後悔する。

私の目を覚ましたことを。


闇が消えていく。

光の世界に残ったのは、私と私の背後の影

消えることはない、私の闇。

結局私は。

光からも闇からも逃げる事は出来ない。

向き合ったって、必ずどちらかを失うのに。

曖昧なままで、終わらせたかった。

光と闇の間でたゆらっていたかった。

していたかった事は、何も手に入らないまま。

私はまた手放すのだろう。

なんて、哀しい。

狂うことも許されずに、ただ諍うことしか出来ないなんて。

諍うたびに、少しずつ欠けていく。

心も身体も。

ぼろぼろと崩れて、最期は壊れておしまい

誰か。

誰か。

私の欠けて、落ちた心を拾って下さい。

私の心を見つけて下さい。

空っぽな心にも、願いがあることを誰か覚えていて下さい。

ただ、生きたかった。

大切な人達と共に、生きたかった。











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