誇り高き
私は、誠を背負う資格などない。

そもそも私に誠などありはしない。

そう、私は武士じゃない。

私は任務を遂行する忍。

それにしか、慣れない。

じゃあ、百人の仲間(てき)を殺して蜻蛉の名を棄てた私は誰?



紅河。

くれなゐのかわ。

私の咎の色。

真っ赤な、鮮血の色。




名は体を表すと言う。




ならば私は、この名前に相応しいのだろう



新撰組の白い鬼。



それは、血に濡れた、人にも鬼にもなれぬ哀れな忍が見た春の夢。

その夢だけで、もう十分。

夢の中で、白い鬼は永遠に生き続けるのだから。






生きる道は、一つじゃない。





私は、現(うつつ)で生きることを諦めただけ。




さあ、醒めよう。

夢から。











「紅河さん……」

「どうした、沖田?」




酷く掠れた紅河の声。

ぴくりと沖田の背が揺れる。

「紅河、さん?」

「ああ」

「目、醒めたんですね……。良かった……」

心から安堵した沖田の目から、涙がぽろりと落ちた。

紅河はその、透き通った雫を不思議そうに見た。

「泣いているのか……?」

「本当、心配したんですよ」

沖田は怒っていると言う風に眉を逆立てたが、それも続かなかった。

上体を起こした紅河が、沖田の涙を拭き取ったからだ。

指に付いた涙を、紅河は切なく見つめる。

「綺麗だな、お前の涙は……」

そう言う紅河は、とても儚かった。

堪らず、沖田は紅河を抱き締めた。

少しでも力を込めれば、折れてしまいそうなほどに細い体だった。


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