誇り高き

長州



「ったく。上役の頭の硬いのなんの」

身なりのいい男が、酒を乱暴に床に置く。

その衝撃で、酒が畳に溢れた。

「____高杉。ここはお前の家じゃない。汚すな」

「だが、お前もそう思うだろ?桂」

にやり、と高杉が口角をあげる。

桂は呆れてため息を吐いた。

「否定はしない。が、お前もやり方を考えろ」

「やり方、とは?」

「勝手に藩の金で船を買うわ、英国公使館焼き討ちをするわ、坊主になるわ……挙句の果てには奇兵隊。______そこの桂も頭が痛いだろうな」

高杉は、視界の隅に入った白い髪をちらりと見る。

「随分と詳しいな。そんなに俺に興味があるか」

「お前ほど珍奇となると、嫌でも噂は耳に入る」

その隣で黙然と桂も頷く。

「珍奇か。奇兵隊総監には相応しいな」

呆れた、と言う顔をして、白い髪の女______紅河は酒を飲んだ。




「珍奇、と呼ばれて喜ぶのもお前ぐらいだろうな、高杉」






先月旧友を失った松下村塾四天王の一人、高杉晋作は、薄く笑うと得意の三味線を持ち、都々逸を歌う。

「三千世界の烏を殺し________………」

よくこうも可笑しな詩を作れるものだ。

妙なところに感心しながら、また一口、紅河は酒を飲んだ。












< 172 / 211 >

この作品をシェア

pagetop