誇り高き
長州
「ったく。上役の頭の硬いのなんの」
身なりのいい男が、酒を乱暴に床に置く。
その衝撃で、酒が畳に溢れた。
「____高杉。ここはお前の家じゃない。汚すな」
「だが、お前もそう思うだろ?桂」
にやり、と高杉が口角をあげる。
桂は呆れてため息を吐いた。
「否定はしない。が、お前もやり方を考えろ」
「やり方、とは?」
「勝手に藩の金で船を買うわ、英国公使館焼き討ちをするわ、坊主になるわ……挙句の果てには奇兵隊。______そこの桂も頭が痛いだろうな」
高杉は、視界の隅に入った白い髪をちらりと見る。
「随分と詳しいな。そんなに俺に興味があるか」
「お前ほど珍奇となると、嫌でも噂は耳に入る」
その隣で黙然と桂も頷く。
「珍奇か。奇兵隊総監には相応しいな」
呆れた、と言う顔をして、白い髪の女______紅河は酒を飲んだ。
「珍奇、と呼ばれて喜ぶのもお前ぐらいだろうな、高杉」
先月旧友を失った松下村塾四天王の一人、高杉晋作は、薄く笑うと得意の三味線を持ち、都々逸を歌う。
「三千世界の烏を殺し________………」
よくこうも可笑しな詩を作れるものだ。
妙なところに感心しながら、また一口、紅河は酒を飲んだ。