誇り高き









「じゃあ、紅河。どのくらいかかるかわからないけど、此方は任せたよ」

「あぁ。心配は無用だ」

薄く紅河は笑うと、とん、と兄の背を押す。

菁河は目を細めると、紅河の頭をそっと撫でた。

「兄上?」

「………大きくなったね、紅河は」

首を傾けた紅河は、自嘲気味に己の手を見つめた。

「……どうだろうな……」

形ばかりは大きくなって、中身は何も変わっていない。

相変わらず、人を殺すのは慣れず。

なのに、己の手が汚れようとも、何も思わない。

所詮、綺麗事なのだと。

身に染みてわかったのは、両親が殺された時。

あまりにも幼く、愚かだったせいで。

母上も父上も死んだ。

「人を殺すのは、嫌い?」

大嫌いだ、人殺しなど。

そして、一番自分が嫌いだ。

「今までも、これからも。好きでも、嫌いでも。私の行く道は、もう一つしかない。………私はその道を、貫くだけだ」

正しくない道を、ただひたすらに歩いてきた。

気付けば、後ろにも前にも、道は一本しかなくなっていた。

そしてその道のずっと先に、終わりが見えた。

兄上は、知っているか?

道の終わりに、最後の最後に。

私と同じくらい、正しくない、歪んだ道が合流することに。






菁河が船に乗るのを見届けて、紅河は踵を返した。

「………今しか、機会はない」

菁河の思い通りにいくわけにはいかない。




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