誇り高き
*
「じゃあ、紅河。どのくらいかかるかわからないけど、此方は任せたよ」
「あぁ。心配は無用だ」
薄く紅河は笑うと、とん、と兄の背を押す。
菁河は目を細めると、紅河の頭をそっと撫でた。
「兄上?」
「………大きくなったね、紅河は」
首を傾けた紅河は、自嘲気味に己の手を見つめた。
「……どうだろうな……」
形ばかりは大きくなって、中身は何も変わっていない。
相変わらず、人を殺すのは慣れず。
なのに、己の手が汚れようとも、何も思わない。
所詮、綺麗事なのだと。
身に染みてわかったのは、両親が殺された時。
あまりにも幼く、愚かだったせいで。
母上も父上も死んだ。
「人を殺すのは、嫌い?」
大嫌いだ、人殺しなど。
そして、一番自分が嫌いだ。
「今までも、これからも。好きでも、嫌いでも。私の行く道は、もう一つしかない。………私はその道を、貫くだけだ」
正しくない道を、ただひたすらに歩いてきた。
気付けば、後ろにも前にも、道は一本しかなくなっていた。
そしてその道のずっと先に、終わりが見えた。
兄上は、知っているか?
道の終わりに、最後の最後に。
私と同じくらい、正しくない、歪んだ道が合流することに。
菁河が船に乗るのを見届けて、紅河は踵を返した。
「………今しか、機会はない」
菁河の思い通りにいくわけにはいかない。