誇り高き



とん、とんと調子良く体が揺れる。

それが心地よく、うとうとと紅河は微睡んでいた。

とても、懐かしい夢を見た気がした。

まだ、覚めたくなくて、夢に浸っていたくて。

もう一度、夢に戻ろうとした時。

ぴたりと、揺れが止まった。

急速に、夢が遠ざかっていく。

私は一体………?

確か、廊下を歩いていて。

それで、倒れて……

「……っ、莵毬!」

飛び起きた紅河は、力が入らずに再び倒れて、何かに頭を強打する。

がんっ、と言う嫌な音とともに、再び酷い頭痛が戻ってくる。

「紅河、目が覚めたか」

どうやら、紅河は籠で運ばれているようだった。

簾が上がって、高杉の顔が覗く。

「高杉……」

高杉に向かって、手を伸ばす紅河の目には、いつもの余裕がない。

高杉をぐいっとおしのけると、紅河は外へ這い出た。

「おい……」

高杉が、彼女を抱き上げようとする。

それすらも払いのけて、紅河はどこかへ行こうとする。

「おい!」

だが、高杉が引き止める間も無く、紅河は力尽きた。

「……行かせてくれ、頼む」

「もう、そんな力は残ってないだろう。
良いから、休め」

「莵毬……莵毬が……っ」

追いかけなければ。

そうしなければ、もう逢えない。

「あぁ……っ!」

悲痛に顔を紅河は歪ませる。

「つか、さ……」

脳裏に浮かんだ、莵毬の背に向かって伸ばした手は。

何も掴むことなく、だらりと宙に垂れた。







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