誇り高き
静かになった紅河を抱えて、高杉は何とも言えない、複雑な想いを心にしまう。
いつも、冷静沈着な紅河が、あんなにも取り乱していた。
それほどまでに、莵毬と言う男は、紅河の心の深いところにいるのだろうか。
半ば、気を失うようにして眠った紅河を寝かせると、高杉はある一室に向かった。
黙って月を眺めていた男が、高杉のす気配に振り返る。
鋭い眼光で睨みつける高杉の視線を、男は静かに受け流す。
二人は数秒見合った。
先に視線を逸らしたのは、男の方だった。
「紅河の、様子は?」
紅河が寝ているであろう、部屋の方を見て尋ねる。
「先程目を覚まして、今は寝ている」
「そうか、」
ふっと男は目元を和ませた。
いつも無表情で、何を考えているのか分からないこいつでも、こんな顔をするのか。
相変わらず、男を睨みつけながらも、冷静に高杉は観察を続ける。
顔は整っており、切れ長の目が特徴。
首には布を巻いてる。
今は座っているが、恐らく背は高い。
そして、とても優しい目をして、紅河が寝ている方を見ている。
「……紅河を頼む。あいつは、もう限界だ。心も体も」
その言葉に、さらに高杉の眼光が鋭さを増す。
「ならば、なぜお前が側にいない。
あいつはお前を、探していた。必死に」
莵毬、と彼女が悲痛な声で呼んだ男。
それはこの、目の前の人物に違いない。
「………そうだな」
だが、と男は首を振る。
男は無表情なのに、何故だか彼もまた、悲痛な顔をしているように見えた。
「俺は、あいつの為に死ねても。生きることはできない」
「誰も彼も。最期に辿り着く先は、死なんだ」
哀しいかな。
悲しいかな。
まだ、終わるわけにはいかないのに。
_____已んぬる哉
_____やんぬるかな
もうお終いだ。
深い深い、絶望という名の谷から聞こえる、終わりを告げる声。
黙って、布団の中で声を殺して泣く紅河。
男達は知らない。
紅河は、全てを知っているということを。
「約束、したじゃないか……っ。そばに、いるって」
やんぬるかな