誇り高き
「昨日は心配をかけたな」
何事もなかったように、起き出した紅河は淡々と、仕事をこなしていく。
「まだ休んでいた方がいいだろう」
「そんな時間があると思うか」
焦っているわけでも、何でもない。
ただ本当に、時間がないのだ。
高杉だって、それを分かってる。
ただ、言わずにはいられない。
「紅河。お前は一体、何者なんだ?」
「……知らない方が良いこともある」
「お前は何を背負っている」
「………さあな」
「紅河」
「……………」
「紅河!」
不意に紅河は手を止めて、高杉を見た。
「守れない、約束をしたんだ。お互いに」
母上、莵毬、兄上、沖田。
沢山の人と、約束をした。
守れないと、気付きながら。
大切な、大切な約束をした。
「沢山の、守れない約束が。重く私にのしかかっている」
何があっても、生きると約束をした。
そばにいると、約束をした。
母上を守ると、約束をした。
死なないと、約束をした。
また一つ、また一つ。
重しとなって、約束は増えていった。
私をこの世に留める、重しとなって。
「まだ、死ぬわけにはいかないと。想えるだけのものができた」
何が何でも。
この身が朽ち果てようとも。
抗おうと、決めたものができた。
「私がここにいるのは、沢山の約束と、決意があるから」
皇衆の末裔の少女でも、蜻蛉でもなく。
「今の私は、それらの想いでできている。______私は、何者か?」
厳かなる誰何。
それは、誰に向けられたものでもなく。
彼女の答えそのもの。
「想いに全てを懸けている。生命を懸けることさえ厭わない。お前と変わらない、愚かな人間だ」