誇り高き
「仕事はまだ残っている………高杉!」
「……何だ」
彼の顔色が青いのは、凄惨なあの光景を見たからだろうか。
しかし、今はそんな事に時間を取られる場合じゃない。
「久坂を探す。行くぞ」
「………あぁ」
皆んな、間違っている。
狂っている。
でも、もう進むしかない。
己のしていることに、絶望しながらも。
己の信じるものが正しいと、この光景を見てどうして言えよう。
そう、誰も彼もが間違っている。
正しいものなど、ありはしないのだ。
燃え盛る藩邸を見つめ、久坂は静かに息を吐いた。
その瞳には、後悔の色がちらつく。
「俺は一体、何を残せたのだろうか」
貧しい医者の跡取りとして、武士を夢見て、いつの間にかこんな歳になっていた。
松陰先生を慕い、ともに学んだ朋友ができ。
いつの間にか、戦場に立っていた。
松陰先生のように、己の志しを果たせたわけでもない。
吉田稔麿のように、信じたものを貫き通し、戦って死ねたわけでもない。
高杉晋作のように、ことを成す力があるわけでもない。
ないものだらけ。
何もできていないのに。
俺はここで散る。
「………医者坊主の夢の終わりにしては、豪華な終わりじゃないか」
そう、強がったとしても。
後悔が消えてくれるわけでもなく。
ただ諦めと、残された一本の刀を握りしめるだけ。