誇り高き
幕間 安らかなひと時
これはある、昼下がりの穏やかなひと時。
*
「かぁーてうれしいっ花一匁っ」
「まけーてくやしい花一匁っ」
壬生寺に響く元気な子供達の声。
「あの子が欲しいっ!」
「あの子じゃわからんっ!」
「「まーるくなって相談っ……」」
元気良くあっかんべーとやり合う子供達の中に。
二つだけ大きな影がある。
一人は楽しいそうに笑いながら。
一人は疲れた顔をして。
子供達と手を繋いでいた。
「「きーまった!!」」
「総司が欲しいっ」
「紅河が欲しいっ」
「これは、頑張らないといけませんね」
にこにこと笑う沖田。
「……………」
更に疲れた顔をして、紅河は前に出る。
「じゃんけん、ほい」
「「あっ………」」
「紅河の負けー」
「……………そうか」
「総司にいちゃんと手繋いでー」
紅河の顔が疲れた顔から、物凄く嫌そうな顔に変わる。
「酷いですね。そんな顔しないで下さいよ」
溜息を吐くのを全力で堪えながら、仕方なく沖田と手を繋ぐ。
________そもそも何で私はこんなことをやっているんだ?
そんな紅河の心中を、察したように沖田が言う。
「まあ、良いじゃないですか。たまには子供達と遊ぶのも」
沖田は好きでやっているから良いだろう。
だが私は違う。
何故たまにの非番をこんな事に使わなければならないのか。
全く以って解せない。
「………そろそろ花一匁も飽きたな。違う遊びにしないか?」
「いいですけど、何をやるんです?」
「鬼ごっこだ」
にやりと紅河が笑う。
「甘味を賭けた、な」
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やがて陽が暮れてきた頃。
「沖田の金平糖も無くなったことだし、ここで終わりにするか」
「総司にいちゃん金平糖ありがとう。紅河にいちゃんまたね」
「……ああ。また、な」
「……ええ、どういたしまして」
最初の笑顔はどこへやら。
沖田は力ない笑顔で手を振る。
子供達が全員帰った後。
ぺしゃんこになった紙袋を見つめて、沖田は悲しそうに溜息を吐いた。
「私の金平糖が………」
紅河の言う甘味を賭けた鬼ごっこ。
それは沖田対紅河と子供達の鬼ごっこ。
沖田は捕まると鬼に金平糖をあげなければならない。
そうして遊ぶうちに、沖田の金平糖はすっからかんになったわけだ。
「まあ、良いじゃないか。たまにはな」
くすっと紅河が笑う。
「む………」
「ああ、早く帰らないと口煩い鬼にどやしつけられるな。ほら、私達も帰るぞ」
「別に土方さんなんて、ほっといても良いです!…………それより紅河さん。楽しかったですか?」
目を瞬かせると、紅河は先ほどよりも優しい目をして笑った。
「…………悪くは、ないな」
「また、皆んなで遊びましょうね」
「…………また、な」
赤く染まった空が、だんだん藍を帯びていく。
少しくらい、今日みたいな日があっても良いな。
自分でも何故かわからないが、紅河はとても満ち足りた気分がしていた。