誇り高き
皇衆
もう、ずっと昔のこと。
神の御手と呼ばれる、暗殺集団がいた。
彼らは後にこう呼ばれる。
“皇衆”と。
「主上(おかみ)」
静かな寝所に、影から落ちる囁き。
主上、と呼ばれた男はびくりと肩を震わせた。
「“陰”か」
決して、影の方を見ようとはせず、背を向けたまま応える。
「例の件は、どうなっておるのじゃ?」
「…………御心配なく」
「ではもう良い。さがれ」
「いえ」
被せ気味に発せられた声に、再び主上の肩が震える。
「私の用が済んでない故。まだ下がる訳にはいきません」
「なんじゃと?」
それは、一国の主である天皇に対して、余りにも不遜な態度。
丁寧な言葉の裏に、傲慢な態度が見え隠れしている。
「そちは……そちらは余の陰じゃ。余に従わないとは何事じゃ!」
「遠くとも親戚であれば、なんの見返りを貰わなくとも、主上の為に働くと?」
淡々と言葉を紡ぐ陰。
けれど、その瞳に隠された色は。
_______深い哀しみの色。
「だから、皆死んでいった。苦しくて、耐えられなくて。壊れていった………」
「それが、余の所為とでも言うのか。余が、そなたらを殺したとでも?」
「さて、な。ただ、時折見る夢が……一人の子供が、百もの桃の木の下で立ち尽くしている子供が……そんな夢を見るのですよ」
「紅とは、なんと罪深き色なのじゃ。余にも纏えというのか。その、罪深き色を……」
主上には陰の姿は見えない。
だから、陰がどんな哀しそうな目をしていようと、どんなに憎そうな顔をしていようと。
それに気付くことはない。
「…………そうやって、壊れていったのに……………」