誇り高き
「お主の髪は……罪を、穢れを知らない…………純白」
紅河の声は、まるで届いていない。
夢の中にいるかのように、訥々と語る。
「羨ましい……なんて、美しい。…………余は、罪など知りとうなかった…………美しく、真っさらなままでいたかった」
紅河はびくりとも動かない。
黙って、目を閉じて、立っている。
そうしなければ、殺してしまいそうだった。
「羨ましい……羨ましいのぉ……」
ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい
膨れる負の念。
それは、大きな大きな闇となるもの。
皇衆が人身御供として背負ってきたもの。
紅河の唇が震える。
目の前のこの男が、憎かった。
殺してしまいたいくらい、憎かった。
紅河の理性が、揺らぐ。
本当に、憎い。
闇を見るのも、背負うのも。
全て自分達なのに。
それをこの男は、羨ましいと。
ずるいという。
ならば、地に。
闇に叩き落としてやろうか。
暗い、暗い闇の底へ。
ゆらりと紅河の手が主上に伸びる。
細い首を引き裂こうと、手に力が篭った。
ずきん。
ぴたりと紅河の手が止まる。
ずきん。
不意に、掌の傷が痛んだ。
痛い。
そう、痛い。
心が痛い。
たとえ、今ここで主上を殺したとて。
何も変わらないのだろう。
変わらずに、闇に身を捧げ続けるのだろう。