誇り高き

建白書



「これ以上、見過ごすことは出来ない。そうだろう?」

暗い部屋に一本の明かり。

声を潜める男達の間に漂うのは、静かな怒りだった。

「ああ。俺達はこんな事をするために、ここにいるんじゃねえ」

「お前もそう思うんだろう。このままじゃ、ここは。新撰組は潰れると、」

すっと開いた戸に目を向けて、男____永倉新八は呼び掛けた。

「なあ、斎藤」

斎藤は音を立てずに部屋に入ると、永倉と目を合わせた。

「異論は、ない」

「命を捨てることになるかもしれねえぜ?」

その言葉に、斎藤は不思議そうに目を瞬かせた。

「新撰組の為ならばそのような覚悟、とっくに出来ていると思っていたが」

永倉は苦笑しかけて、やめた。

「変わっちまったのか、俺も…」

ぽつりと呟いた言葉は、意外にも自分の心にすとんと落ちた。

そうだ、変わるのだ。

自分も、此処も。

変わらぬものなど、ないのだ。

「でも、あんたの芯は変わっていないだろう。それを、守りたいんだ。あんたも、俺も」

変わらないもの。

揺らがないもの。

時の流れに相対するそれ。

「あんたは案外、難しいことを考えてるんだな」

斎藤の言葉に、永倉は目を細めた。

「斎藤。お前、馬鹿にしてるだろ」

「そんなことは無い。感心しているだけだ」

しれっとした顔で、斎藤は言い放つ。

「島田さんはともかく、原田さんまでいるとはな。こういう話とは、無縁だと思っていた」

「お前は俺らのことを何だと思ってんだ」

完全に目の据わった永倉に、斎藤は小さく微笑した。

「仲間」

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