誇り高き
「…………」
斎藤の微笑に、永倉はぽかんと口を開けた。
「どうした」
「……珍しいもの見た……」
「俺だって、笑う時ぐらいある」
日頃表情か変わらないから、勘違いされやすいだけで。
「分からないな、人の心は」
永倉は切なく眼差しを揺らした。
分からない。
分かれない。
心は、複雑で。
それを読み取れるほど、自分は器用でなくて。
今更ながらに後悔する。
どうして、わかってやれなかったのだろうと。
「……分からない方が、いいこともあるさ」
斎藤は、静かに言った。
分からなければ、そのままでいれた。
知らなければ、変わらなくずっといれたのに。
もう、分からなかった頃には。
知らなかった、頃には。
戻れないのだと、気づいた時。
堪らなく、あの日々が。
懐かしかった。
「良い加減、前へ進まないか?立ち止まっている場合じゃないだろう」
時の流れは、濁流のように。
音を立てて、激しく流れている。
もう、流されるのはごめんだった。
立ち向かわなければ、いけなかった。
____時は、激動の時代。
徳川家の威光が大きく揺るぎ始めた、この時勢。
外つ国からは、様々なものが流れ込み、攘夷は倒幕へと転じた。
立ち止まっていれば、押し流されるのは瞭然。
「進もう」