誇り高き
この日は、始まったばかりなのに最悪はまだ続く。

「昨日は随分騒いでいた様だな、近藤」

その男が入ってきた瞬間、部屋が静まりかえった。

この男が芹沢鴨か。

縦にも横にも大きい男。

常に、威圧的な空気をまとっている。

「新入隊士の歓迎会をやっていてね」

この男の登場に、土方も近藤も苦虫を噛み潰した顔をしていた。

「ほう。其れで、その新入隊士は何処にいる?」

「そこだ」

土方が顎で私を指した。

私は一歩前へ出て一例をする。

「昨日入隊しました。紅河です。以後、宜しくお願いします」

次の瞬間、芹沢が出た行動は思いもよらぬものだった。

ドシンッ

芹沢は、紅河が顔を上げた瞬間その首を掴んで壁に打ち付けたのだ。

「「紅河‼︎」」

紅河は辛うじて衝撃を殺したものの、芹沢の手から逃れることが出来ない。

「貴様、女か」

男と女を見た目で見分ける大きな違い。

其れは、胸の膨らみと喉仏の有無。

だが、紅河は胸にしっかりと晒しを巻いていたし、首には防具がわりの幅の有る首輪をはめているので、何方も確かめようがない。

顔も中性的な顔立ちだったので、見分けはつかない筈だ。

其れなのに、芹沢は見破った?

「いえ…私は…っ男で…す」

足は宙に浮いて、首がしまった状態になっている。

「ふん。口ではどうとでも言える。証拠を見せてみろ」

「……証…拠…?」

「そうだ。ふむ、髪は女の命と言う。髪を切ってみろ」

芹沢は、一つに束ねた紅河のながく、白い髪を引っ張る。

ヒュッ

空気を切る鋭い音がして、紙紐がぽろりと落ちた。

芹沢の手にはだらりと髪が垂れ下がっている。

「何…!」

油断した隙に、紅河は芹沢の手から逃れる

「けほっけほっ。これで認めて戴けるでょうか?」

紅河の髪は、肩につかない程短くなっていた。

「ふ、ふはははははははっ。良いだろう。気に入った。……紅河、と言ったか」

「はい」

「覚えておこう」

そう言うと、芹沢は場を乱すだて乱していって去っていった。

「紅河君。大丈夫だったかい!!」

「はい。大丈夫です」

だが、凄い力で締められた紅河の首は、首輪をしていたにも関わらず、紫色に指の跡が痣になっていた。

其れを隠す様に、紅河は首に手を当てる。

「では、私も失礼します」

紅河は、足早に広間を出て行った。




「紅河、大丈夫でしょうか」

「かなり、顔色が悪かったぜ」

「ありゃ、芹沢先生も酷いよなぁ」

「俺達は、何も出来なかった」

芹沢を止めることさえ、出来なかった。

ただ、事態を黙って見ていただけ。

「だが、彼奴も弱音を吐ける程、俺達と親しい訳でも無い」

「そうなんだよなぁ」

彼等が、心配していたことを、紅河は知らなかった。




< 27 / 211 >

この作品をシェア

pagetop