誇り高き
「……紅河さんが甘味好きとは、思いませんでした」

大きな皿にこんもりと乗った団子を、どんどん食べていく沖田。

彼は、紅河に負けず劣らず大の甘味好きである。

食べる量は桁違いだが。

「母が、よく作ってくれましたから」

「へえ。何が一番好きなんですか?」

「草餅、ですね」

一瞬、紅河の瞳が揺らいだ気がした。

「草餅?確かこの店にもありましたよね」

「ありますね」

紅河が品書きを見て頷く。

沖田は不思議そうな顔をした。

「食べないんですか?好きなのに」

その言葉はすとんと紅河の胸に落ちた。

好きなのに________。

紅河は僅かに瞼を震わせる。

「……好きだから、食べれないんですよ」

________今日は、紅河の好きな草餅を作りましょう。

思い出が深すぎる。

母の声が鮮やかに蘇ってくる。

思い出したくない。

小さな頃の思い出は。

今の私には辛過ぎる。

そんな思いとは裏腹に、紅河の意識は幼い頃の記憶に飲まれていった。




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