誇り高き
『今日は、紅河の好きな草餅を作りましょう』

『はい、母上!!』

母の言葉に、幼い子供は嬉しそうに笑う。

『紅河、たくさんお手伝いします』

その子供は、幼い割にははっきりと言葉を喋っていた。

『あらあら、紅河は本当に良い子。沢山作って、お父様にも差し上げましょうね』

『つかさにも、もっていきたいです』

紅河の言葉に、母はにっこりと笑う。

『本当に、紅河は莵毬が好きね。良いわ、莵毬にも持っていってあげましょう』

『はい』

紅河は、喋り方も年相応で無く、親相手に敬語を使っていた。

『では、紅河。よもぎの葉を摘みに行きましょうか』

二人は手を繋いで、河原に歩いていった。



『たくさん、たくさん』

紅河は小さな手で、よもぎを摘んでいく。

持ってきた風呂敷には、山盛りのよもぎが積まれていた。

『母上ーーっ!!』

紅河は嬉しくなって、飛び跳ねた。

『静かにしなさい、紅河。騒いではいけませんよ』

大好きな母に叱られて、紅河しょんぼりとしてしまう。

『……ごめんなさい』

『良いのよ、紅河』

母は、優しく微笑んでそっと頭を撫でた。

『まぁ、沢山採れましたね。使い切れないかもしれません。……ほら、そんな顔をしないで。大丈夫。この時期のよもぎは香りが良い。お茶を作れますよ』

ほら、と母はよもぎの葉を一枚取って、紅河の鼻に近付けた。

ふわりとよもぎの匂いが漂ってくる。

『いいにおい』

今度は気を付けて、声を抑えながら紅河は笑った。




帰り道。

紅河はすっかりよもぎの香を気に入った様で、風呂敷包みを胸に抱え、時たまくんくんと匂いを嗅いでいる。

『あんまり嗅ぐとくしゃみが出ますよ』

『くしゅんっ』

『ほらね』

『くしゅん、くしゅんっ』

何度もくしゃみをする紅河を、母はころころと笑いながら、風呂敷包みを取り上げた。

『紅河。風邪でも引いたのか?』

『くしゅん……つかさ!』

紅河はぱあっと顔を輝かせ、莵毬に駆け寄った。

『ちがうの。よもぎのにおいをかいでいたら、くしゃみがでたの』

莵毬はその小さな鼻をぎゅっとつまむ。

『んー』

紅河は、大きな手をぱちぱちと叩く。

『二人は、本当に仲が良いわね』

その様子を、母は嬉しそうに見ていた。

『雹驛(ひょうえき)様。今日もお変わり無くお過ごしですか』

母___雹驛は、礼儀正しい少年に笑みを返した。

『えぇ。莵毬こそ変わりない?』

『はい。先程訓練を終えたところです』

『つかさ、つかさ。紅河ね、くさもちをつくるの。だからね、つかさにもあげる』

『そうか。では、楽しみにしてる』

『うん』

莵毬は紅河の頭を一撫ですると、雹驛に向き直る。

『では、俺はこれで』

『あとでね』

紅河は大きく手を振った。














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