誇り高き
_________そうだ。
思い出した。
別に草餅の味は好きではなかった。
子供の舌には、少し甘さが足りなかったから。
私が好きだったのは、味ではなく。
母と草餅と作るその時間と。
‘‘紅河の作った草餅は、好きだな”
莵毬の言葉と笑顔が好きだったのだ。
「紅河?」
「どうした。心ここにあらず、だぞ」
「……少し、昔を思い出してしまって」
きっと自分は一生草餅を食べることはないだろう。
再び、記憶は胸の奥に仕舞われる。
「そうか。其れで、話は聞いていたか?」
どうやら、私が記憶を辿っている間に、話は進んでいたらしい。
「すみません。聞いていません」
「……お前の仕事についてだ」
私の仕事。
隊士長と監察方。
今のところ、何方も大した仕事はない。
「明日から俺たちは、大阪に行く。組長が何人か抜けるから、その穴をしっかり埋めてくれ」
「その為に伍長がいるのでは?」
「彼等はまだ経験が浅いですから。対処しきれない事もあるでしょうし」
「では、私は伍長の補佐をすればいいですね?」
「其れで良いだろう」
私も一応新入りなんだが、と紅河は胸中で呟いた。
まだ、入隊して一週間しか経っていない。
其れなのに、隊士長と言うそこそこ上の地位についてしまったから、一部の隊士達から反感を買っている。
今のところ、紅河が上手く立ち回っているので、問題は怒っていないが。
「じゃあ、紅河さん。頼みましたよ」
「はい。……大阪で何をするんですか?」
今更の質問に、斎藤は呆れた視線を紅河に送った。
「最初から聞いて無かったのか」
紅河は軽く頭を下げた。
謝罪の意味を込めて。
「今、大阪に………」
彼の話はこうだった。
今、大阪に壬生浪士組の名を騙って、金を脅し取っている輩がいる。
その者たちを探し出し、捕らえる。
此方の体面にも関わる為、早急に解決したいらしい。
道理で組長格を多く連れて行く訳だ。
そこまで手強くなさそうだが。
だが、嫌な勘がする。
「お気を付けて」
しかし、此方も此方で一悶着ありそうだ。