誇り高き

_________そうだ。

思い出した。

別に草餅の味は好きではなかった。

子供の舌には、少し甘さが足りなかったから。

私が好きだったのは、味ではなく。


母と草餅と作るその時間と。

‘‘紅河の作った草餅は、好きだな”

莵毬の言葉と笑顔が好きだったのだ。




「紅河?」

「どうした。心ここにあらず、だぞ」

「……少し、昔を思い出してしまって」

きっと自分は一生草餅を食べることはないだろう。

再び、記憶は胸の奥に仕舞われる。


「そうか。其れで、話は聞いていたか?」

どうやら、私が記憶を辿っている間に、話は進んでいたらしい。

「すみません。聞いていません」

「……お前の仕事についてだ」

私の仕事。

隊士長と監察方。

今のところ、何方も大した仕事はない。

「明日から俺たちは、大阪に行く。組長が何人か抜けるから、その穴をしっかり埋めてくれ」

「その為に伍長がいるのでは?」

「彼等はまだ経験が浅いですから。対処しきれない事もあるでしょうし」

「では、私は伍長の補佐をすればいいですね?」

「其れで良いだろう」

私も一応新入りなんだが、と紅河は胸中で呟いた。

まだ、入隊して一週間しか経っていない。

其れなのに、隊士長と言うそこそこ上の地位についてしまったから、一部の隊士達から反感を買っている。

今のところ、紅河が上手く立ち回っているので、問題は怒っていないが。

「じゃあ、紅河さん。頼みましたよ」

「はい。……大阪で何をするんですか?」

今更の質問に、斎藤は呆れた視線を紅河に送った。

「最初から聞いて無かったのか」

紅河は軽く頭を下げた。

謝罪の意味を込めて。

「今、大阪に………」

彼の話はこうだった。

今、大阪に壬生浪士組の名を騙って、金を脅し取っている輩がいる。

その者たちを探し出し、捕らえる。

此方の体面にも関わる為、早急に解決したいらしい。

道理で組長格を多く連れて行く訳だ。

そこまで手強くなさそうだが。

だが、嫌な勘がする。

「お気を付けて」

しかし、此方も此方で一悶着ありそうだ。





< 33 / 211 >

この作品をシェア

pagetop