誇り高き
翌日。

紅河はいつも通り巡察に行った。

違うのは先導して歩くのが、組長でなく伍長であること。

其れと、周りを取り囲む気配。

前を行く伍長は気付いていない様だ。

敵に取り囲まれている事に。

「中西さん」

「何だ」

「敵に囲まれています」

さて、彼はどう動く?

「な、何?人数は?」

「およそ三十人。前に十。後ろに二十程度ですね」

「隊士を二つに分けろ。前に五人後ろに十人だ」

敵の数に比べ、味方の数は圧倒的に少ない

しかも、その殆どが経験が浅い。

其れを、二つに分けるのは得策ではない。

「私が後ろを引き受けます。中西さん達は、前の相手をして下さい」

「は?おいっ待てっ!一人で相手を出来る人数じゃ……」

慌てて引き止める中西に、紅河は冷たい目を向ける。

「私の戦いに、貴方方は邪魔です」

「はあ?ふざけんじゃねえっ!どうせお前は幹部達に媚売って、この地位に着いたんだろ。そんな奴がっ……!」

「前をお願いします」

「おいっ‼︎」

中西を無視し、紅河は後ろへ歩いていく。

その途端、前後に敵が出てきた。

紅河の読み通り、前に十人後ろに二十人。

「くそっ。全員、前へかかれっっ!」

中西の指示に全員前に斬りかかる。

背を見せた隊士を、敵が斬ろうと刀を振り上げた。

「かくごぉぉぉ………ゔわぁぁぁぁ!」

その腕を、紅河が切り落とす。

「貴方達の相手は私ですよ」

「おのれぇぇぇ」

「黙れ」

真っ赤な華弁が散った。

すっと紅河は刀を構える。

彼女が一歩踏み出すたびに、敵も一歩後ずさる。

敵の足はガクガクと震え、今にも逃げ出しそうだ。

「た、助けてくれ」

けれど、紅河の瞳は敵を捉えて離さない。

「ひぃぃぃ。……お、鬼が…」

真っ白な髪。

整い過ぎた顔は、無表情で一層怖さを引き立てる。

其れはまさに美しくも残酷な鬼の様。

ドシッ

一人の男が、足を絡ませ尻餅を着いた。

其れが合図になった。

紅河が一瞬で敵に突っ込んだ。

沢山の紅の華弁が空に舞う。

全ての華弁が落ちたときには、紅河はもう刀を収めている。

どんな斬り方をするのか、彼女は返り血一つ浴びていなかった。

「中西さん」

「な、何だ?」

中西達も敵を捕縛し終えた様だ。

先程の尊大な態度は何処へ。

彼もまた、ガクガクと震えている。

「半分は生かしてあるので、捕縛して下さい」

全員殺してしまって、何の情報も得られなければ元も子もない。

敢えて紅河は敵を生かしていた。

「わ、わかった……おい、捕縛しろ」



こうして、紅河の隊士長としての初の大仕事は終わったのだった。





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