誇り高き
紅河(こうか)、起きなさい。
紅河_________
「ん……」
重い瞼を押し上げる。
何故だか、急いで起きなければいけないと思った。
光が眩しくて、よく見えない。
此方を覗き込む二つの人影だけが、微かに見える。
「母上、父上…?」
その人影は二人にとても良く似ていた。
「やっとお目覚めか、蜻蛉」
蜻蛉。
寝ぼけた頭が一瞬で冴え渡る。
「殺さなかったんだ?」
てっきり殺されるかと思ったのに。
人斬りの壬生狼も意外と甘い。
私を拷問にかけようとしているならば、愚の骨頂だ。
「こっちも知りてーことがあったんでな」
「では、どうやって私から聞き出してくれるのかな?」
舐めやがって。
土方は拳を握り締める。
こっちは仲間を一人殺されたんだ。
絶対に楽にはさせない。
「今から聞く質問に答えろ」
返答はせず、蜻蛉は首を傾ける。
「お前の名前は何だ」
蜻蛉は相変わらず首を傾けたまんま。
静かに土方を見返している。
「名前?」
やっと口を開いたと思えば、不思議そうな口調で尋ねてくる。
聞いてんのはこっちだって言うのに。
「名前だ。無いとは言わせないぞ」
あぁ、苛々する。
「例えば?」
「土方歳三とかだっ!!」
慌てて、沖田が袖を引く。
だが、少し遅かった。
「へぇ、貴方が副長の土方なんだ。で、そこの方は?」
まんまと、蜻蛉の策に嵌った土方。
沖田は蜻蛉を鋭く睨む。
「私の名を知ってどうするのです?」
「興味…かな?」
自分でもわからないと言う様に、蜻蛉をまた首を傾げる。
その顔からは何も読み取れない。
「ならば、取引しませんか」
「何と、何を」
「私の名と、貴方の名を」
蜻蛉は目をぱちぱちと瞬かせて、少し口端を吊り上げる。
「実名で?」
「勿論」
「______紅河。苗字は知らない」
「沖田総司」
「紅河。貴方の正体は一体何です?」
紅河は少し、悩む仕草をした。
「知りたい?」
「勿論」
紅河は瞳を閉じる。
「______を……けれ……か」
何かを呟いた様だが、良く聞こえない。
「米の研ぎ汁と布が欲しい」
「何故?」
「正体を知りたいのだろう」
土方と沖田は一瞬ぽかんとした。
まさか、正体を教えるとは思わなかったのだ。
「どうした?私の気が変わらないうちに用意をした方がいい」
「取りに行って来ます」
沖田が出て行き二人切りになった部屋で、土方は鋭く紅河を睨む。
「貴様、何を企んでいる?」