誇り高き

飲めよあれよの大宴会。

祝宴とあって、皆顔が明るい。

あの鬼の土方でさえも、顔を和ませていた

「我々、新撰組の今後の活躍に向けて。
乾杯。皆、今日は好きなだけ飲んでくれ」

近藤は、新撰組が気に入ったらしい。

「新撰組……新撰組……」

紅河は何度か口の中で転がした。

新撰組、ね。

どうにも慣れない。

私は、壬生狼の方が好きだったな。

それに、壬生浪士組はありのままに彼等を表している気がして。

______芹沢さんは狼そのものだったな

ならば壬生狼の名は、芹沢鴨と共に去ったのだろう。

窓に身体をもたせかけ紅河は、遠くを見つめた。

暗闇の中に、ぽつぽつと灯りが灯っていて、何処か幻想的な風景。

「………さようなら」

誰に向けたわけでもなく、受け取る相手のない言葉は、京の町の闇に吸い込まれて消える。

「さようなら」

もう一度、呟いた。

幾分かすっきりした紅河は、部屋の中に目を向ける。

早くも原田が、得意の腹芸を始めていた


「すっかり出来上がっているな」

隣に来た斎藤が呆れて言う。

「そうですね。まぁ、早く潰れてくれた方が片付けが楽で良い」

ゆっくりと杯を傾けながら、薄く微笑う。

ここ数ヶ月で見慣れた光景。

けれども、こうして騒ぐのも悪くないと紅河は思う。

何よりも、祝いの酒は格段に美味だ。

「注ぐか?」

お猪口を持ち上げる斎藤。

普段は断る紅河も今日は杯を差し出した。

お返しに、斎藤の杯にも酒を注ぎながら紅河はくすくすと笑った。

「どうした?」

「いや………楽しいな、と思って」

思いがけない紅河の言葉に、斎藤は目を見張った。

< 75 / 211 >

この作品をシェア

pagetop