誇り高き

『やめてくれ、仲間だろ⁈助けてくれ!』

『私は、任務を遂行するのみ』

次の瞬間、真っ赤な華弁が散った。

一枚の華弁が、自分の首に舞い落ちる。

それは、腕を伝って薬指から地にしたった

『さようなら』

初めて人を殺した。

けれど、心は全くといって動かなかった。

何故なら、私の心はあの日から止まっている。

いや、凍りついていると言った方がいいか

いつか、この凍りついた心は砕けてしまうだろう。

いや、先に体の限界が来る方が早いか。

どちらにしろ、きっと私は長く持たない。

それでも、私は______

『自由になりたい』

その為になら、どんな任務でもこなす。

それが例え、仲間を殺すことでも。

私は躊躇はしない。

この姿を莵毬が見たら何と言うだろうか。

人など殺したくないと言っていた私を、莵毬だけは甘い戯言だと笑わず、真剣に聞いてくれた。

そんな私が、実にあっさりと人を殺している。

罪悪感など一欠片も感じずに。

狂っている。

誰も彼も。

この里のもの全て、皆狂っている。

私は家族を奪った人の下について、他の者の家族を奪っている。

首についた血を拭い、証拠を残さぬ様に布を火に焼べる。

燃やした後で気が付いた。

『あの手拭いは、莵毬から貰ったものだったか』

まぁ、仕方がない。

燃やしてしまったものは、元に戻せない


そこまで考えて、私は苦笑を浮かべる。

我ながら、実に薄情だ。

大切なものなのに仕方ないで済ませてしまうとは。

ならば、私が家族を失ったのも仕方がないことだったのだろうか。

あの日________。

私の家族が殺されたのは。

母上も、父上も殺されたのは。

莵毬が姿を消したのは。

仕方ないことだったのだろうか。

そう考えれば、諦めは付くのだろうか。





今だに自分の殺した男の血が首についている気がして、手で強くこする。

それでも、あの生暖かい感触は取れない。

その感触は、あの日を思い出させる。

真っ暗な闇の中、突如として大量の生暖かい液体が全身にかかったのだ。

どろりとしたそれは、生臭く鉄の味がした

思い出すたび、あの感覚が蘇って来るのだ

感触も、匂いも、味も全て_______。








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