誇り高き
「……かさん!…っ紅河さん!」

ぐらぐらと体が揺らされる感覚に意識がゆっくりと浮上する。

「大丈夫ですか?すごく魘されていましたよ」

ああ、また夢を見ていたのか。

喉の奥に鉄の味が蘇ってくる。

それを飲みこみながら緩慢な動作で起き上がった。

「………大丈夫ですよ。すみません。寝てしまって」

「いえ、別に構いませんけど。本当に大丈夫ですか?先程よりも顔色が悪い」

酷く体が重い。

鈍痛がする。

耳鳴りが酷い。

夢見が悪かったせいだ。

「少し、休めば何ともありませんよ」

深く眠れば、夢は見ないだろう。

柱に手をついてゆっくりと立ち上がる。

かくんと膝が曲がりそうになったところを沖田が支えた。

「………大丈夫、ですよ」

「大丈夫じゃないでしょう。部屋まで送ります」



結局、沖田に部屋まで送ってもらって、布団まで敷いてもらった。

「じゃ、ゆっくり休んでください」

「……ありがとう…ございます」

沖田が出て行くと、私は布団に潜り込んだ

かたかたと体が震えている。

私は唇を噛み締めた。

忘れてしまえ。

夢の事など全て。

忘れて、もう二度と出てこないように封じてしまえ。

強く噛み締め過ぎて、唇が切れ口の中に血の味が広がった。

あ________……

コノ味ハ何?

コノ味ハ______

蘇ってきてしまう。

口いっぱいに広がった鉄の味が。

「いや………だ…」

勝手に涙が溢れてくる。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

どくんっ

いきなり心臓がはね、全身に鋭い痛みが広がった。

沈みゆく意識の中で、何故か鼻の奥でよもぎの香りを嗅いだ気がした。







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