誇り高き
サッ

「持って来ましたよ。お望みの品」

「何で、山崎までいるんだ?」

「わいが、沖田さんに頼んだんですよ」

山崎が紅河を見ながら言う。

紅河もまた、その整った顔を訝しげに見ていた。

「おい、お前。持って来たんだから早く正体を明かせ」

そんな声も聞こえてないように、じっと山崎を見ている。

「おい‼︎」

「え?」

怒鳴られてやっと、苛立たしげに土方の方を見た。

「何だ?」

「とっとと正体を明かせ」

紅河は面倒臭げに溜息をつく。

「取引を忘れるなよ」

土方を鋭く睨むと、研ぎ汁と布を乱暴に手に取った。
研ぎ汁を布にたっぷりと含ませると、長い髪を拭う。

拭ったところから髪の毛の色が黒から白へと変わる。

次に首と左腕を拭った。
現れたのは、首から薬指にかけて流れるようにかかれた、紅い花びら。

最後に顔を拭う。
厚い化粧のしたから、秀麗な顔が出て来た

「これで、満足か?」

声も僅かに低い女の声に変わっている。

触れたら斬れそうな、鋭い雰囲気を出している。

「……ほんまに、紅河なんか?」

「久方ぶりだな。山崎さん?」

頬に掛かる髪をかき上げて、何か含んだような笑みを浮かべる。

「山崎、知り合いか?」

険しくなった土方を無視して、山崎は紅河に詰め寄った。

「何で逃げんかったん⁈あいつを殺してもうお前の全ての任務は終わったんやろ‼︎やっと自由になれたのに、なんで…」

「掟を忘れたか」

紅河が鋭く言うのと同時に、山崎の首に刀が突き付けられる。

その刃の鋭さに、山崎は瞬時に冷静になった。

「…忘れとらんわ。すまん、取り乱した」

「どう言うことだ?」

土方と沖田だけ、話についていけない。

山崎が説明しようとするのを、紅河が片手を振って止めた。

「山崎とは、昔からの知り合い。私の過去は聞かないって、取引しただろう」

土方との取引。
それは、確実に正体を明かす代わりに、過去を一切聞かないこと。

破れば、死。

土方はちっと舌打ちをした。

「ふん。だがどうせお前は死ぬんだぞ。
隊士を一人、殺したからな」

「好きにしろと言っただろう」

紅河はどうでも良さそうに肩をすくめた。

「お待ちください」

それに割り込んで来たのは山崎。
紅河を一瞥すると、懐から一枚の紙を取り出した。

「副長これを見てください」

取り出した手紙を土方に渡す。
文を読んだ土方の顔がみるみる厳しくなった。

「これはっ…」

「紅河が殺した奴が持っていた手紙です。奴は長州の忍で間者でした。紅河が殺さなければ、この手紙は長州に届いていたと思います」

いつになく真面目な山崎。
大阪弁も一切使わなかった。

「何が言いたい?」

「だから、こいつを殺すことは無いと思います」

「ほう」

「副長、お願いします。こいつを殺さないでください」

山崎は頭を深々と下げる。
これには、土方も驚いた。

「山崎、取り敢えず頭をあげろ」

「そうだな、山崎が頭を下げることじゃない」

紅河は他人事のように頷いている。

「あんたが頭を下げへんからや」

自分の生死に全く頓着しない紅河を、山崎は睨む。
それを、紅河は軽く笑って受け流した。

「まあ、山崎にあそこまで言われたら仕方ない」

「副長、では…」

「あぁ、紅河は殺さん」

「それはありがたいことだな。……山崎、ありがとう」

紅河は艶やかに笑う。
その微笑みに、男三人は一瞬で魅了された

_____鬼の副長
おとがいに手を当てて、紅河は思案にくれた。

「それで私は、ここから出て行って良いのか?」

「好きなようにしろ」

「ならば、私を隊士にしてくれないか?」

「「「はっ?」」」

投げ込まれた爆弾発言に、最初に反応したのは山崎だった。

「あかん。何でお前は死に急ごうとするんや?絶対にあかん」

「お前には聞いて無いんだが」

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