誇り高き
_______翌日。

早朝、紅河は今だ怠さの残る体に鞭を打って起き上がると、屋根裏を伝って土方の部屋に行った。

朝が早い土方は既に起きて、何やら書面に書き付けている。

音もなく背後に飛び降りると、気配を察知して土方が振り向いた。

「来るなら声を掛けやがれ。敵だと思っただろうが」

「動くぞ、今日」

「………間者か」

紅河は唇に手を当てて土方を黙らせる。

「お前らはいつも通りでいい。余分な動きはするな。ただ、警戒だけはしておけ」

何もするな、と言う言葉に土方は眉を顰める(ひそめる)。

副長と言う立場において、誰かに命令をされるのは好きではない。

「おい。それは………」

「それだけだ。ではな」

「あ、おいっ」

ばっと身を翻して、紅河は再び屋根裏に戻る。

ちっ、と土方は鋭く舌打ちをして立ち上がった。

「くそっ………ふざけんなよ………!」

昨日、自分が荒木田を調べた時には何の証拠も掴めなかったのだ。

隊士の事なら誰よりも知っているはずの自分が。

「何処で情報手に入れてんだ?」

てか、情報を報告する義務を怠ってんじゃねぇか。

助勤格から落としてやろうか。

「あーむしゃくしゃするぜ。くそっ、稽古にでも行くか」

その日、隊士に稽古であたりまくった土方は、まさに鬼の如くだった、と隊士たちの間で広まったらしい。

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