誇り高き
『僕、小十郎って言うんです。よろしくお願いしますね。紅河さん』

初めは、誰がよろしくするかと思った。

何度も何度無視をして。

それでもお前は、ずっと声を掛けてきた。

めげずに、色々な話をしてくれた。

そのせいで、里の者からは冷たい目で見られることも多かったろうに。

でもな、小次郎。

実はお前の話を私は、楽しみにしてたんだよ。

「何が、そっくりだ、だ。私だと、気付いたくせに」

貴方ではなく、貴女。

お前の最後の言葉は嬉しかった。

だから………


返事を返す時間くらい、残せ。


最後の言葉に返事を返せなかったのは、きっと今まで、楠の言葉に返しをしなかった罰なのだろう。

「………帰ろうか、楠」

仲間の元へ。

彼奴らはお前を、仲間だと信じて疑わなかったのだから。

抱え上げた楠の体は、ほっそりとした見かけに反して、とても重かった。






この事件での死者は楠小十郎一人のみ。

九月二十六日の事だった。



翌日、九月二十七日。

拷問にかけられた荒木田左馬之助の自白により、もう一人の間者御倉伊勢武がいることが発覚。

その日の正午、二人は首を斬られ、死。

何故か最後まで、荒木田は紅河の名を出さなかった。

こうして、一連の騒動は幕を閉じた。

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