ひとつの笑顔
ひとつの笑顔
夜の静寂が広がる窓辺に、少女は佇んでいた。
辺りに少女の他に人はなく、夜鳴き鳥の囀りだけが静かに木霊する。
−−ブルン−−
不意に闇を劈くような音が響き少女の家の前で止まった。
「……」
「……」
カーテン越しに相手の姿を確認すると少女は自身の背丈よりも大きな窓を開け放す。
「……やぁ」
ひんやりと冷たい空気が室内に入り込み、少女の体を撫でる。その空気と戯れていると、清流のように澄んだ声が少女の鼓膜を擽った。
「お待たせ、僕のお姫様(プリンセス)」
その人物は少女を見詰め微笑むとゆったりとした足取りで少女の立つ窓の側へと歩を進める。
「落ちないようにね」
気遣うように人物は言うと窓より少し離れたところで手を広げ少女を受け止める態勢になった。
「……」
窓の桟に立った少女は眼前に広がる光景と眼下に立つ人物を見比べ一思いに飛ぶ。
体が羽根になったかのような重力に逆らう一瞬、少女は温かく優しい感触に包まれる。
「捕まえた」
青年は柔和に言うと少女の頬に口付けを落とした。