ひとつの笑顔


「いつものところでいいかい? 」


背中越しに頷き少女は強く青年に掴まる。少女の姿を確認した青年はゆっくりとアクセルを踏み、自動操縦車を走らせた。


生まれつき体の弱い少女は、外出することを禁止されている。


心地好い風が少女と青年を包みふたりは空気と一体になった。


「……」


少女と青年が出会ったのは、少女の家で行われたパーティでだった。


「今日もまた、あの人にいじめられたの? 」


その時の少女は継母からの虐待に怯えていて、誰にも心を開くことが出来ずにいた。


「……」


「・・・僕が側にいれば……ごめんね」


小さく首を振り、更に強く青年に抱き着く。
青年は少しだけ頬を緩めると自動操縦車の速度を落とした。


青年は初めて会った時からずっと少女に優しく接している。
パーティの日もいつ継母の怒号が響くかわからずに怯えていた少女を助けてくれたのは青年だ。


「……今日は少し寒いね。体調が悪化しないといいんだけど……」


継母に見付からないよう、青年と会う時は2階の自室から飛び降りている。


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