ひとつの笑顔
どのくらいそうしていたのだろうか、青年はやがて少女を抱き上げ波打ち際へと向かう。
「……潮風が気持ちいいね」
横抱きにされた少女は軽く頷き青年の首筋に抱き着いた。
青年は少女のなすがままにしていると、暫くして訥々と語り出した。
「・・・この海には、哀しい伝説があるんだ」
首筋に擦り付くようにしていた少女はその声音に顔を上げる。見ると青年は何処か寂しげで、遥か昔を懐古するような瞳を海に向けていた。