ひとつの笑顔
「……昔むかし、ひとりの女の子と男の子が、海の見える、美しい場処に住んでいました」
青年は波打ち際に少女を降ろすと、静かな口調で語り始めた。
「女の子と男の子はとても仲良しで、周りの誰もが羨むものを持っていました」
水面に浮かぶ白波はその数を一定に保ちながらゆっくりと此方に近付いては消える。
「そのふたりは、何故かはわかりませんが浜辺を流離っていて、長い間ずっとそうしていました」
まるで秘め事を言うような口調は聞いている方を眠りに誘うようで、少女は段々と眠気に襲われた。
「……眠たい? 」
青年はそっと少女の隣に腰を降ろすと柔和に微笑む。
「……寝てもいいよ。君が寝る迄、こうしているから」
その柔らかな声音に意識を保てなくなった少女は、やがて睡魔に身を委ねた。