ひとつの笑顔
少女が目を覚ました時にはもう、空が明るくなり始めていた。
「……帰ろうか」
その言葉に頷き、寝起きの目を擦る。
そんな少女の様子に青年は頬を緩め、そして波打ち際にきた時と同じように抱き上げた。
「……」
「大丈夫、あの人が起きる前に着くよ」
少女の頬に口付け青年は穏やかな口調で告げる。その優しい声音は少女の心を揺らし、彼女これまでにない充足感を覚える。
「……ゆっくり走るからね」
自動操縦車の側まできた青年は後部座席に少女を座らせるとヘルメットを取り出す。
「…………ありがとう」
青年に聞こえるか聞こえないかの声で言った少女はカバー越しに微笑むと青年に抱き着く。
突然のことに驚いた青年は、暫く少女の好きなようにさせていた。
「じゃあ、行くよ」
背中越しに頷いた少女は強い力で青年の腰に手を回す。
−−ブルンッ−−
アクセルを吹かし静かに車を滑らせふたりは家路に着く。
自動操縦車のエンジン音だけが響く中、少女はただ青年に抱き着いていた。