ひとつの笑顔
「はい、着いたよ」
少女の自宅より少し離れたところで自動操縦車のエンジンを切った青年は、ふたり分のヘルメットをトランクに仕舞いながら微笑む。
「……」
自動操縦車から降りた少女はそんな青年の姿と自宅とを見比べると青年の服の裾を掴んだ。
「……一緒に行くかい? 」
少女は頷き更に強く青年の服を掴む。青年は少女を抱き上げると優しくその頭を撫でた。
「……」
窓は昨夜の状態のまま開け放され、家主がまだ起きてはいないことを物語っている。
青年は自分の首筋に縋る少女にそっと口付けると窓から垂れるカーテンに手を伸ばした。
「・・・大丈夫、きっとまた迎えにくるから」
透けるように白いカーテンがふたりの側まで垂れると青年は少女を布に掴ませる。
不安げに青年を見詰めた少女の首筋には、彼と対になる位置に星形のほくろがあった。
「……またね、僕のお姫様(プリンセス)」
「……。…………さようなら、お兄様(My prince)」
ふたりは別れると何事もなかったようにそれぞれのあるべき場処へ帰る。
その姿は、かつて浜辺を流離っていた兄弟のようだった。
-The End-