トキトメ
「前田さん、あいつごときにこんなに怯えてって、バカにしてるでしょ?」

「そんな事ないよ。女の子らしくて可愛いよ」

「えっ?」

「また出た時はいつでも呼んで。退治してやるからさ。それじゃこれで」

 部屋に帰ろうと玄関に向かって歩き出した俺に、後ろからしがみついて来る彼女。
 
「崎田さん?」

「前田さん、行かないで下さい」

「どうしちゃったの? もうやつはいないよ」

「そうじゃなくて、ここにいて欲しいの」

「えっ?」

「私、前田さんの事が好きなんです。お願い。抱いて下さい」

 俺は、腕を優しくほどくと、彼女の方に向き直った。

「崎田さん。俺には愛する人がいる。君の気持ちには答えられない」

「椛島リーダーとの関係、みんなにバラしてもいいんですか?」

「脅迫するの? いいよ、言えば」

 彼女に言われたところで俺は困ったりはしない。

 むしろ、堂々と律ちゃんと接する事が出来るのでありがたいくらいだ。

 律ちゃんは嫌がるだろうけど。

 俺は再び玄関を目指した。

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